DokuOh ~独墺系クラシック音楽~

クラシック音楽、特に独墺系(ドイツ、オーストリア)の作曲家について、CDレビュー中心のブログです。

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Beethoven Symphony No.6 "Pastolare"

Hans Zender
Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrüken


CPO (999 474-2)



意外にもこれまで「田園」を取り上げたとこはありませんでした。再び春らしい曲を取り上げましょう。

ハンス・ツェンダーは現代最高の実力を持つ指揮者なのにも関わらず、今だ「知る人ぞ知る」指揮者かもしれません。私などは「現代のシューリヒト」と呼びたいくらいの実力の持ち主です。その芸風はシューリヒトの自由自在さにロスバウトのドライさを加えたと言えば、当たっているでしょうか。朋友のギーレン同様ドライさばかり強調されるようですが、実際の音楽はそんなことはありません。

10年近く前に「ハンス・ツェンダー・エディション」としてCPOレーベルから発売されたツェンダーの演奏は珠玉の演奏ばかりで、特に古典の作曲家の演奏は唯一無二のものも多々あります。彼は作曲家であり、現代音楽のスペシャリストとして名を知られていますが、私はむしろ彼は古典に適性を示していると思っており、彼の古典の素晴らしさは、シューリヒトを始めとする往年の巨匠達に匹敵する素晴らしいものだと確信しています。
彼のテンポは速めでシューリヒトのそれを彷彿とさせます。ですが、シューリヒトがときに見せる大胆なテンポ操作はなく、基本的にスコアをそのまま音にしようとした演奏です。ツェンダーの素晴らしさはその速めのテンポの中に豊かに溢れる歌にあります。速めのテンポながら決してせかせかしたり硬質にならず、常に自然で歌が溢れています。

一楽章、どうでしょう、この活き活きとした豊潤な歌は!これでこそ「田園」です。テンポが速いと感じません。テンポの良さが音楽に生命力を吹き込んでいます。最後、ヴァイオリンが高らかに歌い上げるところ(7:31)など、涙が止まりません。このツェンダーの演奏を聴くと何度でも涙してしまいます。

二楽章の柔らかく繊細な歌が素晴らしい。これが現代音楽を得意として、一般にドライだとステレオタイプで見られている人の音楽だろうか。最後(11:41)の鳥達の歌声も完璧です。

三楽章ではテンポの良さが非常に奏功して活き活きとした農民達の踊りを描写しています。活き活きとして本当に楽しい。

四楽章、嵐でのソリッドで激しいティンパニの打ち込みなど、効果抜群です。しかし、ただ凶暴な音響にするのではなく、きちんと統制が取れています。五楽章への移行も大変素晴らしく、嵐が去っていく情景が目に浮かびます。

五楽章冒頭の遠鳴りするホルンは、本当に遠くのアルプスの山々から響いてくるようで、その描写が大変素晴らしい。その後の「感謝の気持ち」も繊細に見事に歌い上げています。(8:07)からなど、その優しさに涙を禁じ得ません。これほど繊細で優しい歌を奏でる人を、「ドライ」という一言で片付けられるでしょうか。

数年前、カルロス・クライバーの「田園」が発売されましたが、多くの絶賛の声に非常に疑問を感じました。カルロス・クライバーは好きな指揮者ですし、実演にも接していますが、カルロス・クライバーの演奏は全ていいといった風潮には断固として拒絶します。似たスタイルの「田園」では、断然このツェンダーを聴いていただきたい。すでに廃盤になり手に入りにくくなっていますが、この演奏が埋もれてしまうことは本当にもったいないことだと思います。

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Beethoven Violin Sonata No.5 "Spring"

Wolfgang Schneiderhan
Carl Seemann


DEUTSCHE GRAMMOPHON (00289 477 5502)



冬から春への変化は劇的です。全てが一気に明るく変化します。いたるところに桜の花が咲き誇り、心から日本人で良かったと感じる瞬間です。一方、「春眠不覚暁」で、仕事は相変わらず忙しいのに、眠くてたまりません(単に寝不足なのもありますが)。寝ることが大好きな私にとって最高の季節です。朝布団から出たくありません(笑)。

春といえば、ベタですがこの曲。目覚めの曲にもぴったりです。ヴァイオリン・ソナタは得意な分野ではありませんが、この演奏なら抵抗なく受け入れることができます。私がこの演奏に接したのが小学校の頃で、それ以来ブランクはあるものの、愛聴し続けている演奏です。

シュナイダーハンはかつて「神童」と呼ばれ、若くしてウィーン・フィルのコンマスに就任したヴァイオリニストですが、現在では忘れられつつあるのでしょうか。彼のヴァイオリンには気品があり、貴族的な香りがします。ヴィブラートは振幅が狭く控えめで、決して過激に走らず、抑制され、統制されています。一聴するとぶっきらぼうに聴こえるかもしれません。しかし、そこにはテクニックを誇示しようとか、驚かせようとかいう下品な恣意的さは一切なく、ただ音楽を等身大に美しく奏でようとする音楽家の姿があります。また彼の凄いところは、音は線が細くありながら、音楽の骨格はしっかりしているところにあります。残念ながら現代ではこのようなヴァイオリンは聴かれなくなりました。

冒頭から汗臭さとは無縁で気品があります。スケールは決して大きくありませんが、正に「心に染み入る」音楽です。明るく気品がある中に、ほんのり影があり、それが音楽を含蓄深いものにしています。決して分かり易くないですが、じわじわと感動します。再現部でテーマが短調に転調して物悲しく奏でられるところ(6:26)などシュナイダーハンの真骨頂でしょう。

二楽章のゼーマンの絶妙な伴奏と共に、しっとりした味わい深さも最高です。

四楽章は明るくも決して脳天気にならならず、常に気品を湛え、決して品格を失わないのが素晴らしい。

シュナイダーハンといい、ゴルドベルクといい、こういったヴァイオリニストの奏でる音楽の含蓄は、何事も安易に走りがちな現代では理解されにくくなってきているのかもしれません。それでも一部の理解あるファンから根強く人気があるのは、忘れられつつありながらも、そこに普遍性があるからではないでしょうか。

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J.S.Bach Brandenburg Concerto No.2

James Levine
Adolph Herseth (Tp)
Chicago Symphony Orchestra


BMG CLASSICS (82876762222)



拝啓ハーセス様、

小生は長らく貴方様を誤解しておりました。某体育会系指揮者の演奏の刷り込みにより、ただのテクニックだけの方と思い込んでおりました。その貴方が独奏曲でなく協奏曲で、しかも大バッハでこんなに素晴らしい演奏をされるとは、自身の不明を恥じる次第でございます。そして、小生の大好きなこのブランデンブルクの第2番でこんなに素敵な演奏を披露してくださるなんて、感激の極みでございます。感謝の意に耐えません。

元シカゴ響トランペット主席奏者のハーセスはラッパ吹きの中ではもはや神格化された存在で、「ハーセス様」と呼ぶ知人のファンも数名いるほどです。私もそのテクニックの素晴らしさは彼がシカゴ響でソロを吹いた曲を聴いて認識していましたが、これほどまでに豊かな音楽性の持ち主だとは思ってもいませんでした。バッハが無類のテクニックとともに、豊かに奏でられるのです。まさかバッハでこれほどの演奏を聴かせてくれるとは思ってもいませんでした。神業的なテクニックによりトランペットの音は鳥の如く自由闊達に空を舞い、溢れる湧水の如く留まることなく豊かに流れる。しかし、それがテクニックを見せびらかすような嫌味さがなく、非常に自然であることに驚愕します。全くハーセスは無類の音楽性の持ち主であるということを認識されられました。

一、三楽章のトランペットの木管楽器のような柔らかい音はどうでしょう。これが金管楽器?というほどに透明で柔らかい音です。アタックは完璧で絶対に汚い音がしません。これだったらホルンのように木管アンサンブルに入っても全然違和感がないではないですか。そして伴奏を含めた拍感を強めに出したリズム感が抜群です。
ブラインドテストでこれがシカゴ響のメンバーによる演奏だとは分からないでしょう。他のソリストの技術も抜群です。バッハもこれだけの演奏できてしまうシカゴ響の奏者達の能力の高さに感服します。二楽章など多少陰影には乏しいですが、楽しさという言う点で聴かない手はありません。

シカゴ響のバッハというとコアなバッハファンからは敬遠されてしまいそうですが、虚心坦懐にして聴くときっと幸せなバッハに巡り会えることでしょう。

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beet5_kegel.jpg

J.S.Bach Air

Herbert Kegel
Dresdener Philharmoniker


Altus (ALT056)



最近、久しぶりにバッハ、ブルックナーのサイクルに入っています。この二人の音楽は情感よりも構造、人間のドラマよりも宇宙の法則を感じさせ、音楽の風景に人がいないのが共通しています。そのある意味「潤いのなさ」に体が拒絶反応を示すことが時々あるのですが、この一年近くそのような状態が続いていました。しかし、自分で驚くほどここ数日体がバッハを求めています。この音楽の嗜好の波は精神の動きとどう連動しているのか?今後の研究課題にしたいと思っています(笑)。

さて、久しぶりのバッハのエントリですが、いきなり「音楽の捧げ物」や「フーガの技法」といった結晶化した音楽では敷居が高いので、ポピュラーな曲にしますが、それでも内容は大変へヴィーかもしれません。

かつてこれほど「G線上のアリア」が透明で寂寥感を湛え、美しく奏でられたことがあったでしょうか。信じられないほど美しく、そして哀しい。ケーゲルが「冷たく歌い」きった稀有な演奏です。たった5分弱の音楽がここまで心揺さぶることは!
ケーゲルらしい透明感溢れる演奏ですが、それが徹底されています。軽い眩暈を覚えるほど、ヴァイオリンは氷のように透明で冷たい。そしてそれ故に胸が締め付けられるほど哀しい。最初のテーマが戻ってくるところはぎりぎりまで引き伸ばされたりと、ケーゲル独特の歌に溢れており、ただ音響的に透明なだけでなく、そこにロマン気質とは違うケーゲルの「冷たい情念」が宿っています。それが音楽を無類の感動的なものにしているのです。嗚呼、メロディーそのものが持っている暖かさのみが唯一の救いか。

カップリングの「運命」も特異な名演ですが、この5分弱のためだけにこのCDを買っても決して無駄にならないと断言します。こんな素晴らしい演奏が日本で繰り広げられていたとは。この演奏の数ヵ月後、東西冷戦が終結し、ベルリンの壁が崩壊、ついにケーゲルはピストルで自らの命を絶ちます。この演奏はケーゲルの遺言だったのか?バイアスをかけて物事を見てしまうのは人の性ですが、ケーゲルはどれだけのものをこの音楽に込めたのか、思いを馳せてしまいます。

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Ancient Airs and Dances

helios (CDH55146)



今日はちょっと変り種を。重い曲の次ですので軽めのものにしましょう。

レスピーギはローマ三部作を含めてほとんど聴かない作曲家ですが、「リュートのための古風な舞曲とアリア」は少しばかし聴く機会を持ちます。理由はこれらがルネサンス音楽の編曲版であるということにあるわけですが、原曲の素朴感と編曲による色彩感が巧く調和していると思うからです。

さて、編曲版ということは原曲があり、ずっとリュートによる原曲が聴いてみたいと思っていました。最近以前から探していたこの曲の原曲集をようやく入手することができました。これが本当にいい。有名な第3組曲「シチリアーナ」など、より哀愁漂いたまりません。編曲版よりもずっとお気に入りになりました。
基本は組曲の順に原曲を並べており、編曲版を知っている人はすぐに馴染めるでしょう。基本はリュート単独で、時にはテナーやヴァイオリンも入ってメリハリをつけています。目の前に明るい土色の南欧の壁が現れるようで、どこかなつかしい「しっとりした開放感」に包まれます。非常に心癒されます。

リュートのギターとも違う音がまた素晴らしい。弦の張力が低いことによりもたらされる柔らかくふくよかな音に参りました。ポロン、ポロンと奏でられると、時間の流れがずっと遅かった古代に誘ってくれ、殺伐としたサラリーマン生活で疲れた心を癒してくれます。

最近スバルのインプレッサのCMで使われた第3組曲「イタリアーナ」ももちろん入っています。ルネサンス音楽の素朴でほのかに寂寥感を漂わせながら、明朗な音楽に新鮮な感動を覚えました。たまには「独墺」だけでなく、音楽でも息抜きが必要ですね。

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bru9_bosch.jpg

Bruckner Symphony No.9

Marcus Bosch
Sinfonieorchester Aachen


Coviello CLASSICS (COV 30711)



こんな重い曲をしつこいくらいに聴いています。それくらいに魅力的な演奏に巡り会えました。今回は前三楽章を取り上げます。

ボッシュのブル9は速い。今まで聴いた中で一番速い。どれくらい速いかというと、私の所有している中で一番遅いチェリビダッケと比較すると、

      チェリビダッケ   ボッシュ
一楽章  32:26       19:56
二楽章  13:47       10:46
三楽章  30:37       20:19

という感じでチェリビダッケはボッシュの約1.5倍の時間を要しています。では、ボッシュの演奏がブルックナーを語っていないかというと全く逆で、見事にブルックナー最晩年の深淵な世界を描出しています。この演奏は特にチェリビダッケの演奏によってもたらされたと思われる「ブルックナー=遅いテンポ」という原理主義に対するアンチテーゼに十分なりうるでしょう。聴いていてテンポが速いと感じません。テンポはあくまで相対的なものということを実感させてくれます。速めのテンポながら、深淵で美しい響き、深く呼吸するフレーズ、そして決して乱暴にならない壮絶なフォルテ。ボッシュは完全にブルックナーの語法を身につけており、全てを掌握しています。前三楽章だけでも過去の名演に比肩しうるのではないでしょうか。若くしてブルックナーを体得してしまったボッシュ。今後どのような進化を遂げるのでしょうか。

一楽章冒頭のブルックナー開始から凡演を引き離しています。なんと深みのある響き。さすがに一楽章の第二主題などはもっとゆっくり歌ってもらったほうが好みですが、大変美しく感動的であることには変わりはありません。展開部のクライマックス、コーダの壮絶さには震撼します。コーダで虚無の宇宙空間に連れ去ってくれ、恐怖を感じさせる演奏しか信頼しませんが、恐ろしいまでの深さです。

二楽章は過去の名演、ヴァントやシューリヒトと比肩しうる素晴らしい演奏です。深い響きを保ちながらリズムに切れがあり、壮絶な音響が迫ってきます。トリオの美しさも文句なしです。

三楽章の弦の歌の深々とした美しさはどうだろう。テンポが速い遅いという議論が無意味だということが分かるでしょう。最後は速めのテンポで締めくくり四楽章の予感を感じさせます。

そして、あの壮絶な四楽章がやってくる・・・

久しぶりに真剣にブルックナーの音楽に対峙し、その音楽の偉大さに打ちのめされました。やはりブルックナーの音楽は私にとって掛け替えのないものなのです。
この演奏は一枚に収まっていて、CDを取り替えることなしに、この至高の音楽に集中出来ることが大変嬉しいです。四楽章の出来もさることながら、前三楽章の出来も素晴らしいので、ブルックナーを愛する人全てに聴いていただきたい演奏です。人類の至宝、ヴァント/ミュンヘン・フィルの演奏と並んで、一生大切にしたい、長く聴いていきたい、そう思わせてくれます。

お買い物『HMV - 交響曲第9番(2007年校訂フィナーレ付) ボッシュ&アーヘン交響楽団(ハイブリッド)【SACD】-ブルックナー/音楽/HMV』


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Bruckner Symphony No.9

Marcus Bosch
Sinfonieorchester Aachen


Coviello CLASSICS (COV 30711)



彼は最期の瞬間、どこを、何を見ていたのだろうか?この神に捧げる最後の交響曲の最後の楽章の完成をただただ夢見、ついに完成することなく肉体が朽ち果てた彼は。

もはや最晩年ブルックナーの魂が神の領域に達していたことは疑いもなく、この作品が人類が生み出した芸術の最高傑作の一つであることを信じて疑いません。一体ブルックナーに見えていたものは何だったのか?混沌と秩序とが、光と闇とが交錯し、螺旋を描いて調和する姿か?凡人には想像もつかない世界だったことでしょう。

前三楽章でも今までの曲と比べ非常に曖昧模糊とした抽象的な曲ですが、四楽章では更にその度合いが強くなります。聴いたことない不思議なハーモニー、とりとめのないリズムの変化、頻発するブルックナー・パウゼ。フラグメントから起こされた補筆版ですらそう感じるのですから、ブルックナーが完成したであろう最終版はどんなものになっていたのだろうか。「色即是空・空即是色」、般若心経の有名な一節ですが、「有」と「無」の区別がない、究極の姿が現出したことでしょう。

その姿を最後まで見せることなかった究極の交響曲、ブルックナー交響曲第9番の四楽章の補筆版の演奏で、納得の行く素晴らしい演奏が登場しました。ブルックナー指揮者最後の希望、ボッシュの演奏です。前三楽章の出来と共に、今まで最高の四楽章付きの演奏です。きっと10分の1は最終版の感動が再現出来ていることでしょう。いや、常人にはそれで十分すぎます。これ以上は命を危険に曝しかねません。
まずは、肝心の四楽章から取り上げます。

天上のハーモニーが奏でられる三楽章が終わり、静かに始まる不思議なモチーフに導かれ巨大な威容が出現する。そこから全く未知の世界です。この四楽章には所々に耳慣れた前三楽章のモチーフが使われています。そのモチーフの再利用の巧さはブルックナーならではでしょう。
展開部、再現部でのクライマックスの巨大さは8番の終楽章の比ではなく、この世にこれ以上スケールの大きい音楽は無いと断言します。
この楽章で一番感動的なのは再現部の静かに奏でられるテ・デウム音形(15:02)。まるで雲に乗り、雲海の中を軽やかに飛んで地球の大地を見渡しているようです。ビックバンに始まった無秩序から、やがて宇宙が晴れ、恒星や銀河などが誕生し秩序が生まれ、そして生命の惑星、地球が誕生する。その激しくも平静な生命の星の姿に激しい衝撃と感動を覚え、震え、涙が止まりません。神が起こした生命誕生の奇跡に、神の無限の慈悲に、畏敬の念を強く感じるのです。
コーダはほとんどスケッチが残っていなかったのもあり、弱くなってしまうのは致し方ないですが、ボッシュの力量もあり、ヴィルトナーの演奏にあったような物足りなさはありません。全曲通して聴き終わった後は、激しい疲労感に襲われます。

最後に晩年自身が神の使徒となったヴァントが、最後の来日を果たす前に未完の交響曲を書いた二人の作曲家についてインタビューに応えた内容を記しておきます。

「二人の作曲家とも、完成させる時間は十分にあったが、沈黙してしまった。この沈黙の意味は何か。私は説明できないが、人間の世界を超えた何かを感じる。演奏者、聴衆ともに、この『何か』を感じ取る努力をしなければならない」

もしかしたら、安易にこの未完の四楽章に思いを馳せることは、神への冒涜であり、愚行なのかもしれません。
(無論、この楽章の補筆に生涯をかけているサマーレらはこれに該当しません。)

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