DokuOh ~独墺系クラシック音楽~

クラシック音楽、特に独墺系(ドイツ、オーストリア)の作曲家について、CDレビュー中心のブログです。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
このページのトップへ
beet_guller.jpg

Beethoven Piano Sonata No.31, 32

Toura Guller


Warner Classics (2564 69899-8)



号泣しました。体が硬直し汗だくになり、涙が溢れてきました。この演奏をCDショップで試聴したときのことです。私はこの演奏を聴くまで、ギュラーという演奏家の名前すら知りませんでした。曲が大好きなベートーヴェンの後期ピアノ・ソノタだったというだけの理由から試聴したのです。安易な考えはすぐに裏切られました。31番の冒頭から金縛りになり、最後まで聴き続けたのです。

これほど「臨場感」のある演奏を私は知りません。「臨場感」とは演奏会に接しているような臨場感ではなく、作曲家の人生そのものを体験しているような臨場感です。このような経験はアラウのシューベルトを聴いたとき以来です。いわば自分の魂が演奏家とその音楽を媒介して、ベートーヴェンの魂と一体化し、ベートーヴェンの苦悩に満ちた人生を走馬灯のように見ているようなそんな錯覚に襲われるのです。ここでは楽器の音はしません。鳴っている音はベートーヴェンの魂の叫びそのものであり、人生そのものです。もはや楽器は楽器でなくなり、聴衆とベートーヴェンの魂とを繋ぐ、魂のタイムマシンと化しています。どんな曲を聴いても、どんなに演奏が素晴らしくても、普通は聴いている音はピアノの音であるということを意識しますが、そういうことが一切ありません。これは音楽であると言うことすら憚れます。

もう具体的にどうこういうのが馬鹿馬鹿しくなります。ギュラーはかなり大胆にテンポゆらすのですが、それが恣意的でなく、それどころか一つ一つのフレーズがベートーヴェンが話し掛けているようなそんな感覚に襲われます。音楽は洗練されておらず、女性が弾いていながら、野暮ったいところすらあります。それが無類の説得力を生み出しているのです。彼女は女性でありながら、いったいどうやってここまでベートーヴェンと同化できたのか!全く信じられません。

31番、一楽章冒頭からいったいなんという慈悲に満ちてるのだろう!ただ音が綺麗なだけでなく、すぐそばに誰かがいて包み込んでくれているような安堵感があるのです。(1:08)からの信じられない美しさ!「美しい」ということばでしか表現できないことがなんともどかしいか。零れ落ちていく音を一つ残らず手ですくって受け止めたい、そんな衝動に駆られます。

三楽章、まるで人生の終焉を告げる鐘ような、突き刺さる二回目の嘆きの歌最後の和音。そこから始まるフーガのなんという繊細さ。そしてどうしようもない寂寥感。音楽が次第に力を増してくると、押さえつけるような入魂の打鍵一音一音が激しく心を揺さぶり涙が止まらなくなります。最後はもの凄い生命力をもって一気に天上まで駆け上がります。

32番一楽章、序奏が終わって主部が始まってからの生き物のように蠢くグロテスクな音の塊には驚愕します。いったいこれは音楽なのか?
二楽章の痛々しいほどの美しさといったら!もう号泣しました。ボロボロに泣きました。音が綺麗という表面的で低次元な美しさではありません。人間の魂の美しさとでも言い換えられるでしょうか。ベートーヴェンの晩年の魂はこれほどまでに気高かったのか。

最近は打撃音すら耳に刺激が強いので、ピアノ曲はほとんど聴いていませんでした。ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタはそれなりに満足している演奏を持っており、もう買わないだろうと思っていました。それだけに、今回の出会いは衝撃でした。ただただ芸術の奥の深さを痛感しています。一生大切にしたい素敵なものに出会えた気がします。

お買い物『HMV - ピアノ・ソナタ第31番、第32番 ギュラー(p)【CD】-ベートーヴェン/音楽/HMV』


↓本記事がお役に立てたら、クリックにご協力お願いいたします。

音楽ブログランキング にほんブログ村 クラシックブログへ

テーマ:クラシック - ジャンル:音楽

このページのトップへ

コメント

これもウィッシュリスト行き

こんばんは。
dokuohさんがコンスタントにブログをアップされるようになってから、私のHMVのアカウントのウィッシュリストにどんどん欲しいCDがたまってきてしまっています。ありがたいけれど、ちょっと“罪”ですよ、dokuohさん。
31番のソナタ大好きなんですから、買わずばなるまいですね。

  • 2007/11/10(土) 00:23:55 |
  • URL |
  • garjyu #4A9T8td.
  • [編集]

dokuoh教

garjyuさん、
こんばんは。コメントありがとうございます。
うふふ、こちらの思う壺ですね。私の目的はdokuoh教の布教にあるのですよ(笑)。布教されてください。
冗談はさておき、これは本当に凄い演奏です。31番好きなgarjyuさんでしたらノックアウト確実です。
さて、やっぱりブログは楽しいと思う今日この頃です。今後ともお付き合いください。

  • 2007/11/10(土) 01:24:58 |
  • URL |
  • dokuoh #TquaeRfg
  • [編集]

久しぶりにでましたね

こんばんは。ブログ2周年おめでとうございます。ベートーヴェンの後期のピアノソナタで、しかも女性で、書かれているような演奏がまだ残っていたのですね。ギュラーは1枚も持っておりませんので、聴いてみようと思います。

  • 2007/11/11(日) 01:37:14 |
  • URL |
  • calaf #-
  • [編集]

ありがとうございます

calafさん、
こんばんは。お祝いのお言葉ありがとうございます。
calafさんは御存知かと思っておりましたが、御存知なかったのですね。初め聴いたときは男性の演奏だとばかり思っていましたが、家に帰り調べたら女性であることが分かり驚きました。是非ともお聴きになってください。

  • 2007/11/11(日) 21:45:33 |
  • URL |
  • dokuoh #TquaeRfg
  • [編集]

聴きましたよ

31番、32番とも聴きましたよ。31番は1楽章の32分音符の処理が滅茶苦茶うまい。フォルテの打鍵は強烈ですが、ピアニシモの打鍵もしっかりしていながらベルベットのような触感があります。いわゆる大家の音楽ですね。内田光子さんが、学生さんに思えるような感じです。3楽章、嘆きの歌のテンポも悠然たる左手の運びですね。嘆きの歌が完全に左に乗っています。最初のフーガもまばゆさを感じます。立体感も素晴らしい。終わりのフーガはもうまぶしいくらいです。

32番は第1楽章の荒々しさには肝をつぶしました。第2楽章の繊細さと好対照をなしますね。ピアニシモといいますと、左ペダルを多用した、響きの薄い音がよく使われるのですが、ギュラーのピアニシモは小粒のダイヤモンドという感じがします、輝きと切れがあります。録音も高水準で楽しめます。

  • 2007/11/17(土) 00:32:57 |
  • URL |
  • calaf #-
  • [編集]

流石です

calafさん、
こんばんは。コメントありがとうございます。
流石の評論ですね。稚拙な私の文章とは違い、楽器の特性、音楽を良く分かっていらっしゃいます。
さて、お気に召されたようでよかったです。この演奏は本当に一生の宝にしたいです。

  • 2007/11/17(土) 02:11:39 |
  • URL |
  • dokuoh #TquaeRfg
  • [編集]
このページのトップへ

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

このページのトップへ

トラックバック

FC2Ad

Information

dokuoh
  • Author: dokuoh
  • 最近老け込んで、見た目もすっかり年相応になってしまったバカ親パパのサラリーマンです。最近は、仕事、子育て、親の面倒に追われ、音楽を聴く時間もまともに持てなくなってますが、ストレス解消に無謀な数のCDを買いつづけています。^^;

Search

Calendar

03月 « 2017年04月 » 05月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

 

プロフィール

dokuoh

Author:dokuoh
最近老け込んで、見た目もすっかり年相応になってしまったバカ親パパのサラリーマンです。最近は、仕事、子育て、親の面倒に追われ、音楽を聴く時間もまともに持てなくなってますが、ストレス解消に無謀な数のCDを買いつづけています。^^;

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

リンク

  このブログをリンクに追加

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。