
Schubert String Quartet No.12
Quatuor Sine Nomine
CASCAVELLE (VEL 3115)
ベートーヴェンは弦楽四重奏第12番で深淵な後期弦楽四重奏への幕が明けましたが、シューベルトも同じ12番でそれ以降の深淵な世界への扉を開いています。それまでの気楽な身内で演奏を楽しむ曲想から、音楽は格段に深くなり、晩年の絶望を垣間見ることができます。シューベルトの肉体が病魔に冒され、死の影がじょじょに忍び寄っていたのも一因なのでしょう。「断章」の名の通りシューベルトは二楽章途中で筆を止めてしまったので、一楽章のみ演奏されるのですが、この一つの楽章だけで演奏されるほど充実した内容を誇っています。冒頭のトレモロなど最後の弦楽四重奏、15番の世界を先取りしています。
この曲では不健康なまでに透明な演奏を好んで聴きます。重要なのは1st Vnでしょう。その歌い方で演奏の良し悪しの大半が決まると思います。押し付けがましくなく、無にも近い透明感が絶対に必要なのです。シネ・ノミネSQの1st Vn、ジュネは技術的にも申し分なく、アウリンSQのリンゲンフェルダー、メロスSQのメルヒャーに十分匹敵する音楽性と技術を持ち合わせています。線が細めで硬質な歌い方で、このようなスタイルだとややもするとヒステリックになるのですが、ジュネはそのようなことは一切ありません。
冒頭からも決して音をむやみに暴力的に響かせずに、その不安定な世界を描出しています。透明感があるがゆえに音楽が深みを増しているのです。
それにしても展開部の1st Vnの美しい歌は溜息が出ます。私はこの展開部が大好きで、氷のように透明で温度の低い不健康な美しさに惹かれてしまうのです。ジュネは、ここで素晴らしい演奏を聴かせてくれます。決して1st Vnが浮き出るのではなく、調和しています。(6:00)からの透明な1st Vnの美しさは何度聴いても魂を氷付けにされていまします。
アウリンSQのリンゲンフェルダー、メロスSQのメルヒャー、そしてこのシネ・ノミネSQのジュネと本当に素晴らしい音楽家だと思います。他の団体の演奏も好んで聴きますが、アウリンSQ、メロスSQ、そしてこのシネ・ノミネSQの透明度の高い美しい演奏があれば、私は満足です。
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